utteringUFOの日記

私とあなたの備忘録です

神保町

初めて、神保町に遊びにではなく働きに来た。

私にとっての神保町は岩波ホールと古本の街であって、来る時はいつも一人でルンルンだった。岩波ホールの老人率の高さ、古本屋の匂い、何軒も巡った後にたくさんの本を抱えて入る喫茶店、時たま入ってみるお洒落なブックカフェ、そのどれもが好きだ。しかし今日は朝から緊張し通したままルンルンとは程遠いテンションをひた隠しにした笑顔を貼り付けて、バイト先の出版社へ赴いた。結果から言えば、本当にホワイトできちんと教えてくれる優しい社員さんのいる会社だったのだけれど、終わりまで断続的に手が震えていた。

 

私は電話が苦手だ。滑舌が悪くて聞き取ってもらえないのではという恐怖もあるが、家にある黒電話の鳴るのが怖くていつしか電話自体が怖くなっていた。しかし社会人になったらそんなことは言ってられないなと気を引き締め、自分を打ち直すために電話業務があるのを承知でこのバイトに申し込んだ。行っていきなり任されたのは案の定何本も電話をかける仕事で受話器が手汗で滑りそうになりながらこなした。頭が真っ白で全然わからないまま、もつれる舌でご挨拶した。

電話はもちろん、細かく何かをチェックするのも、後ろでコピー機やシュレッターや電話の音が鳴る中で会話するのも、音声からの書き起こしも、周りの人との柔らかで角の立たないコミュニケーションも、ぜんぶ苦手な行為だと思う。でも恐らくこれらができないと会社で働けないのだと思う。少なくとも就活をしている子達を見ている限りではそうだ。肉体労働も向いてない私がデスクワークもできないとなると、困る。本当に困る。

だから自分がなんとか社会人として働けるレベルにまで適応させるための訓練期間として、ここでバイトしようと思うが、私の決意なぞ会社には関係ないので彼らに迷惑をかけてはいけないというのはわかっている。でも社員さんたちの反応を見るに、きちんと期待に応えて仕事をこなせたようなので大変安心した。一度これはできると把握されたものは今後も安定したパフォーマンスでできなければいけない。彼らの時間やお金を損ねないように、許される限りこの温かい場所で働きたい。友人もいることだし。

それに何より、もしどうしようもなく駄目な時は岩波ホールに逃げ込んじゃえばいいのだ。古本屋でもいい。きっと大丈夫だから一つずつ仕事を覚えていってね。とりあえず今日のご褒美は岩波文庫より『ウィーン世紀末文学選』をば。