utteringUFOの日記

私とあなたの備忘録です

ヒュゲ

いざ、上野へ。友人と『ハマスホイとデンマーク絵画』展に行ってきました。

 

19C末のデンマークの絵画をハマスホイを中心に見てゆく展示で、風景画と肖像画以外に室内画があるのが大きな特徴です。もっと煌びやかな雰囲気の画家や美術館の展示を見ると、人、服、花、天使、ガラス、レース……という感じになりますが、この展示は引きで見た誰もいない室内をストンとそのまま映したものになります。一般的な静物画とも少し違う感じですし本当に部屋が描かれているだけなのですが、不思議と当時の部屋の匂いや暗さや温度がそのまま流れてくるのです。

都会に住むハマスホイが自室のアパートメントなどで描いた作品が室内画のメインですが、ここで、場所がデンマークであることと北欧の室内へのこだわりを、思い出します。冬が厳しくどうしても室内で過ごす時間が長くなりがちな北欧では調度品や家具やテキスタイルの発展が著しく、今もスウェーデンのお店であるIKEAは有名大手家具屋として日本でも人気を博しています。それだけ室内へのこだわりがある北欧なら、この絵画もなるほど納得。

 

グレーの淡い色調で描かれた室内も、よく見ると脚の華奢で綺麗な机や装飾の綺麗な化粧台などが見受けられました。ただそれだけではなく、質素に見える部屋や普通の生活をする人の営みもとても満ちているのを絵画から感じます。絵画自体は色味も落ち着いていて暗く、いっそ冷たいような無機質な対象物でも、その静けさの中に心地よい穏やかさがあるのが掬いとれます。公式サイトを後から読むと「ヒュゲ(hygge):くつろいだ、心地よい雰囲気」の価値観を彼らは大事にしているとあって、正体はこれかと府に落ちました。

絵画の合間に書かれた言葉の中で「ハマスホイの絵には春や秋など季節はなく、どの時間軸でもない別世界のことである(朧げ)」というようなことが書かれていたのを観賞後の余韻の中で思い出すと、ヒュゲとは固定概念をとっぱらった上での穏やかな空気の流れのことであり、ハマスホイたちはそれをキャンバスに捉えていたのかなと思います。今の俗世で言うチルと似ているのかなと思いましたが、あれの言葉の響きはなんとなくパリピのかほりがして近付き難いので、今後私はヒュゲを使って参ります。

 

北欧家具の展示を数年前に観た時にも感じた安らぎを、今日の展示の中でも感じることができて、家具や絵画に存在するこの普遍的充足感を建築でも再現することができたらなぁと思索しています。

上野公園にそそぐ陽は眩しく子供たちを照らしていたし、喫茶店で食べるナポリタンも美味しく、実りと癒しの両立した1日でした。